創作御伽話
「桃木と顔なし地蔵」
閂寺の小坊主の梵念は ・・・
仏殿の奥の間で見つけた
不思議な文字が浮かび上がる巻物の
おとぎ話が気になって ・・・
時々 ・・・
話の続きを、読みに行くようになっていました。
ある日 ・・・
梵念は、不思議な事に気が付きました。
巻物を開くと、物語が始まり ・・・
閉じてしまうと、物語は止ったままなのを ・・・
二話 氷の雫と五人の戦士
ある年 ・・・
次郎吉は、春風が吹いても ・・・
おとうふ山の麓の桃の木が、花を咲かせないのに気が付きました。
すると ・・・
桃次郎の母親も、春の暖かい風が ・・・
辺り一面に漂っているのに、一向に目を覚ましません。
困った次郎吉は、桃次郎と一緒に ・・・
おとうふ山の中腹にある閂寺へ出向き
和尚に、助けを求めました。
和尚が言うには ・・・
桃の木は、鬼虫に根っこを食べられ枯れかけていると ・・・
助けるには ・・・
氷の国へ行って、鉄鬼が持っていると言われている
氷の雫を、持ち帰って来なければいけないと ・・・
次郎吉が、困っていると ・・・
背後から、元気な声が聞こえました。
「氷の雫は、俺が必ず持って帰って来る!」
次郎吉が、振り向くと ・・・
桃次郎の、光輝くような姿がありました。
桃次郎は ・・・
氷の国へ向かっています。
お腰に、綿の袋を付けて ・・・
次郎吉が ・・・
畑から採れた綿で作ってくれた袋です。
中身は ・・・
きび団子が五つ、入っていました。
ある日 ・・・
桃次郎は、一本の針と出会いました。
針は、お腹がすいて、真っ直ぐ縫えなくなっていました。
桃次郎は、針に、きび団子を一つあげました。
針は、とっても喜びました。
次の日 ・・・
桃次郎は、待ち針と出会いました。
待ち針も、お腹がすいて、止める力が無くなっていました。
桃次郎は、待ち針にも、きび団子を一つあげました。
待ち針も、とっても喜びました。
また、次の日 ・・・
桃次郎は、指ぬきと出会いました。
指ぬきも、お腹がすきすぎて、押す力が無くなっていました。
桃次郎は、指ぬきにも、きび団子を一つあげました。
指ぬきは、涙を流して喜びました。
またまた、次の日 ・・・
桃次郎は、鋏と出会いました。
鋏は、お腹がペコペコで、布を切る事が出来なくなっていました。
桃次郎は、鋏にも、きび団子を一つあげました。
鋏は、嬉しそうに、きび団子を食べました。
そして ・・・
一つ残った、きび団子を惜しみもなく
最後に出会った、糸にあげました。
糸は、桃次郎にお礼を言うと ・・・
嬉しそうに帰って行きました。
綿の袋の中は ・・・
空っぽになってしまいました。
それでも ・・・
桃次郎は、空っぽになった綿の袋を
お腰に付けて、氷の国へ向かいました。
梵念は、巻物を閉じると ・・・
「あれ~ ・・・? お供は ・・・?」
と、言って首を傾げます。
「一人で氷の国へ行くのは、無理だよ!」
梵念は、考えます。
そして ・・・
紙に墨で、何やら書き始めました。
きび団子のお礼に ・・・
針と 待ち針と 指ぬきと 鋏と 糸は、戦士となって
桃次郎の、お腰に付けた綿の袋の中に入っていた
きび団子の代わりに、氷の国へお供をする ・・・
に、しました。
梵念は、巻物を開くと ・・・
不思議な文字が浮かんで来る前に ・・・
急いで、墨で書いた紙を置きました。
すると ・・・
不思議な事が起こりました。
ユラ ユラ ユラ ユラ
梵念の書いた文字が、ゆらゆら揺れて ・・・
ユラ ユラ ユラ ユラ
巻物に、移って行きました。
三話 氷の国と文字の魔法へ 続く