厄病神の閻魔帳と貧乏神のお財布

(花の牢獄 その壱)

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 ある男は、突然! 目を覚ました。

長い眠りについていたのか、頭が重くて動けない。

 

 気が付くと、ベットに寝ていないことに気がついた。

ベットどころか、家の中でもなかった。

 

 花の香りが、鼻につ~んときた。

自分が、花に囲まれてることに気がついた。

 

 体を、起こしてみる。

見渡す限り、一面花の草原だった。

 

自分が知る限り、こんなに広い花の草原は記憶になかった。

 

 その男は、立ち上がって歩こうとした。

しかし、気がついた。

 

どっちの方向へ歩いていいのか、分からなかった。

 

 記憶を、辿ってみた。

不思議なことに気がついた。

 

 記憶が、何もなかった。

 

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 ゴーン ゴーン  ゴーン ゴーン

 

低い重たい鐘の音が、闇の国に響きます。

 

 ゴーン ゴーン  ゴーン ゴーン

 

誰もが恐れ怯える剣の山の頂上に ・・・

 

 ゴーン ゴーン  ゴーン ゴーン

 

針のように鋭く尖った、聳えるように建っている塔の鐘が ・・・

 

 ゴーン ゴーン  ゴーン ゴーン

 

不気味な音色を、響かせています。

 

 

 

低い重たい鐘の音は、闇の法廷にも響きます。

 

 ゴーン ゴーン  ゴーン ゴーン

 

「これで、今日の裁判は、終了です。」

 

 ゴーン ゴーン  ゴーン ゴーン

 

ピーンと張りつめた空気の中 ・・・裁判官の凛とした、声が響きます。

 

 ゴーン ゴーン  ゴーン ゴーン

 

「閉廷 ・・・」

 

 

 黒いフードを被った、黒装束の裁判官の低い声が消えると ・・・

法廷にいた人々は、煙のように次々と消えていきます。

 

 

 

 

 

「陽炎(かげろう) ・・・聞いた?。

  閻魔帳に、又名前が載ってない奴が、現れたって。」

寅丸(とらまる)が、近づいて話しかけます。

 

「知ってる。 まだ、逢ってないけれど ・・・」

法廷の扉から奥へ続く長い廊下を歩きながら ・・・

 

「どこに居るの ・・・?」

 

「花の檻に ・・・」

 

「そう ・・・あそこは、此花(このか)が作り出す幻影だから安心だ」

 

「でも、長くはもたない ・・・

  調べる事が有るから ・・・ それから逢いに行くつもり ・・・。」

ある部屋の、扉の前で止ると ・・・

 

 陽炎は、心配ないよと思わせるような微笑みをして ・・・

ギギギィーと、重い扉を開けて部屋の中に入って行きました。

 

 

 扉の上の豪華な彫刻で飾られた表札には ・・・

不気味な文字で、厄病神の部屋と書いてありました。

 

 

 

 寅丸は、身震いすると ・・・

これは、関わらない方がいいな! と思い

急いで立ち去ろうとすると ・・・

 

 

 ガタ ゴト  ガタ ゴト

 

厄病神の隣の部屋から ・・・

 

 ガタ ゴト  ガタ ゴト 

 

何やら、騒がしい音が聞こえてきます。

 

 ガタ ゴト  ガタ ゴト

 

「ない! ない! ない! ・・・」

 

 ガタ ゴト  ガタ ゴト

 

慌ててる声まで、聞こえてきます。

 

 

 寅丸は ・・・

何気なく、ふと表札を見ると ・・・

これもまた、立派な彫刻で貧乏神の部屋と書いてありました。

 

「うわーっ! くわばら! くわばら!」

そーっと、音を立てずに急いで立ち去ろうと ・・・

した瞬間!

 

ぎぃぃぃ~! と ・・・

貧乏神の部屋の扉が、開きました。

 

 寅丸は ・・・

心臓が、どくんどくん鳴っているのが聞えてきました。

それでも、気が付かない振りをして立ち去ろうと ・・・

した瞬間!

 

「お~い!」 と ・・・

貧乏神の呼ぶ声が、聞こえてきました。

 

 寅丸は、二倍の速さで鼓動している心臓を抑え

それでも聞えない振りををして、立ち去ろうとすると ・・・

 

「お~い! こら! 何もせんから大丈夫じゃ!

  ちと、手伝ってくれ~!」

 

 寅丸は、心を決めて振り向くと ・・・

よれよれの衣をまとった、貧弱なご老体が

満面な笑顔で、手招いていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コト コト  コト コト

 

深~い眠りから ・・・

 

 コト コト  コト コト

 

意識が戻り始めると ・・・

 

 コト コト  コト コト

 

遠~いどこかで ・・・

 

 コト コト  コト コト

 

何か? 小さな音が聞こえます。

 

 コト コト  コト コト

 

音が、だんだん近づいて来ます。

驚く事に ・・・ その音が、話かけてきました。

「リリさん! 気が付きましたか?」

 

「えっ!」

びっくりして、目を開けてみると ・・・

松ぼっくりのぼっくり隊長と、兵隊のどんぐり達が

心配して、リリの顔を覗き込んでいました。

 

 

 

 リリは慌てて、飛び起きます。

「どうしたの? ここは、どこ?」

そして、キョロキョロ周りを見渡します。

 

 周りは、薄暗く ・・・ 窓も扉もなく ・・・

大きな岩がいくつも重なり、湿った冷たい空気が

辺りを漂っていました。

リリは、背筋がゾクッ! として不安が広がります。

そして、慌ててココを捜します。

「ココ! ココ!」

どこにも居ません。

「ココは ・・・?」

 

 

「覚えてないのですか?」

 

ぼっくり隊長が、心配して聞きます。

どんぐり兵たちも、リリを囲んで不安な顔をしています。

 

「確か、あの時 ・・・?」

記憶を、たどります。

 

 そして ・・・

大きな口と、どんぐり眼(まなこ)を見開いて

「そうよ! 突然、地面に穴が開いて ・・・

  すごい勢いで吸い込まれたのよ!」

 

 リリは、光のリングを使って ・・・

逃げる間もなかったことを思い出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 サン サン  サン サン

 

 残暑が続き ・・・

 

 サン サン  サン サン

 

からっからに乾いた ・・・

 

 サン サン  サン サン

 

真っ直ぐの実のなる野菜畑で ・・・

 

 サン サン  サン サン

 

ものさし爺さんは、一生懸命に畑を耕していました。

 

 しかし ・・・

何か悩んでいる様子 ・・・

 

「う~ん? おかしい? 絶対におかしい?」

 

 ものさし爺さんが、愛情を持って植えた野菜の苗が

次々と萎れていくのです。

 

「なぜじゃ~?」

 

 

 

 

 その同じ頃 ・・・

お裁縫箱の家では ・・・

 

 

 サッ サッ  ゴシ ゴシ

 

お掃除をしながら ・・・

 

 サッ サッ  ゴシ ゴシ

 

「おかしいわ~!」

針山母さんも、何か悩んでいます。

 

 サッ サッ  ゴシ ゴシ

 

暑さのせいかしら ・・・?」

 

 サッ サッ  ゴシ ゴシ

 

 最近、すっかりお仕立て物が減り

お掃除ばかりしているのです。

 

 

 すると ・・・

古~いボロボロの布が、ものさし爺さんの部屋から舞ってきました。

 

「何かしら ・・・?」

 

針山母さんが、拾おうと手を延ばしたら ・・・

ボロ布が、すっと避けました。

 

「あら? 気のせいかしら ・・・?」

 

もう一度、手を延ばすと ・・・

すすっと、また避けました。

 

「えーっ!?」

 

 それから、何回も拾おうとして、手を延ばすと

すすすっと、避けられてしまうのです。

 

「おかしなボロ布ね ・・・?生きてるみたい ・・・?」

 

 

 

 

二十一話 厄病神の閻魔帳と貧乏神のお財布

           (花の牢獄 その弐) へ ・・・ 続く