十話 ミロロと愉快な仲間達2

「行ってきま~す!」

朝から元気な声が響きます。

「行ってらっしゃ~い!」

針山母さんが、笑顔で手を振って見送っています。

 

 

 ミロロは、一人前の縫い針になるために、ほのぼのお裁縫学校に通っています。

学校まではすごく遠いけれど、履物一族のイグサが一緒だから

あっ!という間に着いてしまいます。

だから ・・・

時々 ・・・油断をして道草をしてしまいます。

小川で水遊びをしているサミーとカッパーを見つけると

夢中になって遊んでしまい、学校に遅れるのも ・・・ たびたび!

そして ・・・

担任のハッサミーナ先生に、大目玉を食らいます。

 

「また、水遊びをして来たのね!

 鉄棒にぶら下がっていなさ~い!」

 

 ハッサミーナ先生は、みんなの憧れの先生です。

美人で頭も良く、スタイルも抜群!

とっても切れ味のある、優しい先生です。

でも、怒ると怖いのです。

 

 ミロロとサミーとカッパーそして、履物一族のイグサ ・・・

サミーといつも一緒の地下足袋のシュンソク!

いつも ・・・この5人で、物干し竿に吊るされた洗濯物のように

洋服が乾くまで、鉄棒にぶら下がっているのです。

 

 ハッサミーナ先生の怒りが収まるまで ・・・

 

 

 

 そんな日々の中 ・・・

ミロロは、今日も学校へ行く準備に、朝から大わらわ!

急いで支度をして、イグサが来るのを待っています。

 

 いつもは、ミロロの方が朝の支度にバタバタして

イグサが玄関で待っています。

しかし ・・・ 今日は、ミロロが待っています。

イグサが来ないのです

 

「まだ、来ないの?」

針山母さんが、心配して声を掛けてきます。

「どうしたのかな ・・・?」

ミロロも、心配になってきました。

「きっと、もうすぐ来るわよ!」

「そうよね ・・・きっと、寝坊したのよ!」

そう言いながらも、不安になってきました。

 

しかし ・・・

いつまで待っても、イグサは現れませんでした。

 

 

 同じ頃 ・・・ 

ミロロの通っている、ほのぼのお裁縫学校では ・・・

 

「みなさ~ん! おはようございま~す!」

ハッサミーナ先生の爽やかな声が聞こえます。

「今日も元気にお勉強しますよー!」

 

 

「ミロロ ・・・ 遅いわね!」

マチバの心配する声が聞こえます。

 

 マチバは、ミロロの幼なじみです。

一人前の待ち針になるために、一緒に学校へ通っています。

 

 マチバの家は、ピンクのプラスチックのお裁縫箱です。

屋根には、ソーラーパネルがあってオール電化です。

ミロロは、いつも羨ましがっています。

  

 

「どうしたのかな?」

ヌッキーの声もします。

 

 ヌッキーの家は、何人もの横綱を出している

指ぬき相撲の、名門の指ぬき一家です。

たくさんのお弟子さんが、一人前の指ぬきになる為に

毎日、稽古に励んでいます。

 

 

 ちなみに ・・・

ミロロの家の指ぬき父さんも、若い頃 ・・・

稽古に励んで、横綱を目指して汗を流した場所です。

しかし ・・・

指ぬき父さんは、横綱にはなれませんでした。

 

 横綱になるには ・・・

100枚の布を、一針で貫かなければ成らなかったのです。

指ぬき父さんは、99枚まで貫いた時 ・・・

指ぬきに、穴が開いてしまい敗れてしまったのです。

 

 傷心する指ぬき父さんを ・・・

ふかふかの針山母さんの大きなお腹で包んであげたのが ・・・

今から何十年も前の ・・・

牡丹雪が降る、クリスマスの季節の頃でした ・・・♡♡♡

 

 

 

「サミー! 何か知らない ・・・・?」

いつまでも来ないミロロを、心配するカタンの声が聞こえます。

 

 カタンは、糸一族の御曹司です。

五段重ねの、立派な桐のお裁縫箱に住んでいます。

ミロロは、いつものけぞって見上げて ・・・

後ろにひっくり返りそうです。

ミロロの家とは、大違いです。

 

「いや ・・・ 何も知らない ・・・」

サミーも、心配しています。

「ただ ・・・ 不思議なことがあったんだ ・・・」

 

「何!!!」

マチバとヌッキー そしてカタンが ・・・

大きな声を出して、サミーを見ます。

 

「こらー! おしゃべりは、しない!」

ハッサミーナ先生に怒られます。

「今日は、難しいですよー。

 グループのみんなで力を合わせないと出来ませんよ!」

先生の元気な声が聞こえます。

 

 

 サミーは、声のトーンを落として ・・・

「おとうふ山が、光ったんだ。黄金色に ・・・」

 

 

「えーっ!!!」

マチバとヌッキーとカタンが、また大きな声を出します。

 

 

「こらーっ!話を聞きなさーい!失敗しますよ」

ハッサミーナ先生の声も、だんだん大きくなって来ました。

「今日は、一つ目落としの練習をしま~す。

 いいですかー!よーく聞いてないと ・・・」

 

 

 サミーは、もっと小さな声で ・・・

自分の見たことを、みんなに話します

マチバとヌッキー、そしてカタン ・・・

みんな、目を大きく開いて ・・・びっくり!

すると ・・・

 

 ホワ ホワ  ホワ ホワ

周りの空気が、ユラユラ揺れ始めました。

 ホワ ホワ  ホワ ホワ

みんな ・・・又も、びっくり!辺りを見回します。

 ホワ ホワ  ホワ ホワ

 

「カタン ・・・」

糸の精霊 ・・・ほつれが現れました。

 ホワ ホワ  ホワ ホワ

「どうした! ほつれ ・・・?」

 

 ほつれは、カタンの耳元に近寄ると ・・・

すうっと、カタンの中に消えてしまいました。

 

「大変だー!ミロロが、危ない!」

大きな声で叫ぶと、カタンが走り出しました。

 

 糸の精霊ほつれは、何かを伝えたい時に現れます。

カタンに、危険を知らせに来たのです。

 

 

 

 

 

「こらー! 授業中ですよー ・・・」

ハッサミーナ先生が、叫びます。

 

 サミーとヌッキーそしてマチバ ・・・

みんな、カタンを追って走りだします。

 

「こらー! ・・・」

ハッサミーナ先生の声が ・・・

だんだん小さくなっていきました。

 

一方、金の卵を追いかけている変な一行は ・・・

「ねえーっ! チョクチョク!

 こんな所に、温泉があった ・・・?」

マルマルお化けのマールが、不思議に思って聞きます。

 

「ずーっと来てなかったから ・・・ うーん ・・・?」

チョクチョクも、考え込みます。

 

「おーい! チョクチョク! 何やってんだー!

 早く入って来ーい!」

ものさし爺さんが、呼んでいます。

 

「気持ちいいぞー!」

巻尺爺さんも、ご機嫌で叫んでいます。

 

「爺さ~ん! 飲んで ・・・ 飲んで ・・・」

六べえに ・・・ノッペ、 アマモーリに ・・・シッケ ・・・

そして ・・・二人のお爺さんは ・・・

露天風呂に浸かりながら ・・・酒盛りを始めてしまいました。

 

 卯の花草原を越え ・・・

おとうふ山のおから峠に向かう途中に ・・・

気持ち良さそうな、露天風呂が現れたのです。

おまけに ・・・

湯船にお盆が、ぷかぷか浮かび ・・・

お銚子付きで ・・・

 

 

 十一話 糸一族と躾糸婆さんへ ・・・ 続く