四話 綿の袋と春の嵐
ビュン ビュン ビュン ビュン
氷の矢が、雨のように降ってきます。
ビュン ビュン ビュン ビュン
桃次郎は、剣で払い落とします。
しかし ・・・
次から次へと降る ・・・ 氷の矢に ・・・
徐々に体力が失われます。
すると ・・・
お腰に付けた綿の袋の中から ・・・
針が ・・・
元気良く飛び出して来て、氷の矢を砕き ・・・
待ち針が ・・・
飛んで来た氷の矢を、撃ち落とし ・・・
指抜きが ・・・
拳で、氷の矢を破壊し ・・・
鋏が ・・・
鋭い刃を回転させ、何本もの氷の矢を弾き返し ・・・
糸が、持った事もない剣を ・・・
名剣士の様な剣裁きで、氷の矢を払い落とします。
五人の戦士の活躍で ・・・
桃次郎は、氷の矢の攻撃を逃れる事が出来ました。
五人は、桃次郎のお腰に付けた綿の袋の中で
疲れきって、ぐっすり寝ています。
でも ・・・
桃次郎は、休まず歩みを続けます。
桃の花のような母が ・・・
鬼虫の病に、苦しんでいるからです。
桃次郎は、鉄鬼の気配を感じています。
体が、汗ばむくらい熱くなって来ました。
いつの間にか ・・・
周りの景色は、氷が解け ・・・
目の前に、大きな鉄の壁が現れました。
「きっと、 鉄鬼はこの中に居る ・・・」
桃次郎は、入り口を探します。
しかし ・・・
入り口が、ありません。
代わりに ・・・
美しく輝いた球体が、鉄の壁に張り付いていました。
球体は、キラキラ輝き ・・・
中に液体が入っている様に見えます。
桃次郎は ・・・
これが、氷の雫だと ・・・ 思いました。
そして ・・・
手を延ばして ・・・ 氷の雫をつかみました。
すると ・・・
ギギギ ガシャーン!
ものすごい大音量と共に ・・・鉄の壁が開き ・・・
中から、鉄鬼が現れました。
桃次郎の ・・・
お腰に付けた綿の袋の中で、寝て居た五人は ・・・
大音量に ・・・びっくり!
慌てて袋から顔を出して ・・・
又も ・・・びっくり!
大きな鉄鬼が ・・・
目の前に、仁王立ちをしていたのです。
五人は ・・・
口を開けたまま ・・・ 固まっています。
驚きと恐怖で、動く事が出来ません。
すると ・・・
鉄鬼の胸についている物が、点滅を始めました。
10 9 8 7 ・・・
桃次郎は、とっさに不安を感じ ・・・
その場から、走り去ります。
しかし ・・・
間に合うはずがありません。
6 5 4 ・・・
鉄鬼は ・・・
真っ赤になって ・・・爆発寸前です。
3 2 ・・・
梵念は、慌てて巻物を閉じます。
そして ・・・考え込みます。
頭の回転が速く、思慮の深い梵念は ・・・
「防御 ・・・?」
そう言うと、紙に文字を書き始めました。
しばらくして ・・・
文字を書き終えると、紙を巻物の上に置き ・・・
清々しい顔をして、部屋を後にしました。
仏殿の奥の間の ・・・片隅の暗闇で ・・・
それを、じーと見ている者が ・・・居ました。
梵念は、気が付いていませんでした。
3 2 1 ・・・ 絶対絶命!
ドッカ~~ン!!
鉄鬼は ・・・大爆発を起こしました。
科学者達は ・・・
鉄鬼が動き出すと大変な災害をもたらすと想定し
動き出す前に、自爆するようにプログラムをセットしてありました。
爆風は ・・・ 春の嵐となり ・・・
氷の国を、走り抜け ・・・ 世界中に吹き付けました。
お裁縫箱の国では ・・・それから ・・・
春に一度、強い風が吹くようになりました。
鉄鬼が居た所は ・・・熱風で氷が解け ・・・
大きな大きな湖が出来ました。
不思議な事に ・・・その湖は ・・・
氷の国の、寒さの厳しい真冬の季節になっても
凍る事のない ・・・魔法の湖になりました。
そして ・・・ 湖の水に浸かると ・・・
どんな病も治ると、言われる様になりました。
桃次郎は ・・・呆然と ・・・
大きな湖を見つめていました。
次郎吉が作ってくれた ・・・
綿の袋に助けられました。
綿の袋は ・・・
すべての物を、飲み込んでしまう と言われている ・・・
大きながっさい袋に変身し、桃次郎に覆いかぶさり
周りに飛んで来る、すべての物を飲み込んでくれました。
桃次郎は ・・・湖の水をすくい ・・・
お腰に付けた綿の袋に入れると ・・・
父と母の待つ家に、帰って行きました。
仏殿の奥の間の、襖の隙間から ・・・
暖かい春の風が漂います。
巻物が ・・・ くるくると ・・・開くと ・・・
一枚の紙が、ふわ~っと 浮き上がります。
・・・・・
・・・・ 鉄鬼が爆発する寸前に ・・・
針と 待ち針と 指ぬきと 鋏と 糸は、
桃次郎の、お供の役目を終えて、お裁縫箱の国へ帰りました。
そして、桃次郎の雄姿を語り継ぐのであった ・・・
「その爆発で起こる ・・・
不のエネルギーは、なかったの ・・・?」
花の妖精のりりの声が、聞こえます。
「もちろん、あったわ!
言い伝えによると、アーナが盾となって ・・・
すべての不のエネルギーを、包み込んだのよ。」
そよ風のココが、答えます。
「そんなに大きな不のエネルギーを ・・・一人で ・・・?」
「違うわ! 桃次郎から光が現れて、 アーナを助けたのよ。」
「まあ!」
「そして ・・・アーナは、一粒の雫となって地上に降り
大きな湖になって、沢山の人々を助けたそうよ ・・・」
春風の悪戯で ・・・
もう一枚 ・・・ 紙が、ふんわりと舞い上がります。
桃次郎が、氷の雫を持って帰って来ると ・・・
大喝采で、褒めたてられて ・・・顔のない桃次郎は ・・・
みんなの ヒーロー になりました。 デヘヘ ・・・
「顔なし桃次郎と五人の戦士達は、大活躍だね!」
ムロロが、目をキラキラさせて言います。
「ほんと! ヒーローだよ!」
メロロが、おにぎりを食べながら叫びます。
すると ・・・
「おにぎり、美味しそう ・・・」 と ・・・
のっぺら坊お化けの、ノッペが
顔なし地蔵の影から、出て来ました。
うわーっ!
ムロロも、メロロも、針山母さんも ・・・
びっくりして、大きな声を出します。
「もーっ! びっくりさせないでよ!」
「ごめん。 ごめん。 デヘヘ ・・・」
満開の桃の木は ・・・暖かい春の風と ・・・
笑い声に、いつまでも包まれていました。
めでたし めでたし
創作御伽話
「桃の木と顔なし地蔵」