創作御伽話                 「桃の木と顔なし地蔵」

 おとうふ山の麓にある、一本の大きな桃の木の下で ・・・

 

針山母さんとムロロとメロロが ・・・

 

 大きな大きな、おにぎりを食べています。

 

モロロのおひなさまに飾る、桃の木を探しに来たのです。

 

 ムロロが、桃の木の下にある、お地蔵様を見て ・・・

「どうして、お地蔵様に顔がないの ・・・?」

 

「それはね。 昔からの言い伝えによると ・・・

  鉄鬼と闘った時に、なくしてしまったそうよ ・・・」


 メロロがびっくりして ・・・

「えっ! 鉄鬼? 赤鬼や青鬼じゃないの ・・・?」

 

「そうよ。 赤鬼や青鬼は、桃太郎でしょう ・・・?」

 

「うん。」

 

「でもね。 お地蔵様は、桃次郎よ!

  とっても母親思いの、勇敢な少年だったそうよ!」

 


 


一話 一粒の希望の光

 おとうふ山の麓に、一本の桃の木があります。

 


 春の暖かい風が吹き始めると ・・・

 桃色の可愛い花を咲かせ ・・・

甘~い香りを漂わせて、みんなの心を和ませます。

 

 

 桃の木は ・・・

冬の間は、ず~っと寝ています。

春風が起こしに来るまで ・・・



 

 

 

ある年 ・・・

 

 おぎゃー  おぎゃー

桃の木は ・・・

 

 おぎゃー  おぎゃー

春風ではなくて、赤ん坊の声で目を覚ましました。

 

 桃の木の下に ・・・

元気な男の子の赤ん坊が居たのです。

桃の木が、困っていると ・・・


 

 赤ん坊は ・・・

泣き声を聞きつけた、近くに住んでいる

優しそうな農夫が、連れて行きました。

 

 次の年 ・・・

 

 きゃっ   きゃっ 

桃の木は、春風に起こされると ・・・

 

 きゃっ   きゃっ

元気な子供の笑い声が、聞こえて来ました。

 

 昨年、桃の木の下に居た赤ん坊です。

桃の木の周りを、ヨチヨチ歩いていました。

 

 

 毎年 ・・・

春風に起こされるたびに ・・・

子供は成長し、大きくなって行きます。

 

 

 桃の木は ・・・

目が覚めるたびに大きく成って行く

子供の成長を見るのが、楽しみでした。

 

 

 

 桃の木は、いつの間にか ・・・

目を覚ますのを、楽しみに待つ様になっていました。

 ある年 ・・・

 

 チク チク  チク チク

桃の木は ・・・春風ではなく ・・・

 

 チク チク  チク チク

痛みで、目を覚ましました。

 

 桃の木の根元が ・・・

虫に食べられて、腐りかけていたのです。

 

 桃の木は、悲しくなりました。

あの子の成長を、見れなくなると思うと ・・・

 

 

 桃の木の下に居た赤ん坊は ・・・

立派な少年に、成長していました。

 おとうふ山の麓で ・・・

綿を栽培している農夫の次郎吉は ・・・

毎年、春風が吹くのを楽しみにしています。

 

 

 家の近くにある、桃の木が ・・・

可愛らしい花を咲かせ、甘~い香りを漂わせるからです。

 

 次郎吉は ・・・

桃色の花を咲かせる桃の木が、大好きでした。

 ある年 ・・・

 

 おぎゃー  おぎゃー

桃の木の方から ・・・

 

 おぎゃー  おぎゃー

赤ん坊の泣き声が、聞こえて来ました。

 

次郎吉は ・・・

急いで声の聞こえる方へ、向かいました。

 桃の木の下に ・・・

美しい娘が、赤ん坊を抱いて立っていました。

 

 娘は ・・・

困った様に次郎吉を見ると、にっこり微笑みました。

 

 

 次郎吉は ・・・

一目で恋に落ち ・・・ 一緒に暮らす様になりました。

 

 次郎吉は、幸せでした。

子供は、桃次郎と名付けられ ・・・

毎年 ・・・ 毎年 ・・・ 大きくなって行きました。

 次郎吉は、ただ ・・・ひとつ ・・・

不思議に思う事がありました。

 

 桃次郎の母親は ・・・

冬の間、ずーっと寝ている事でした。

起こしても、起きないのです。

 

 そして ・・・

春風が吹くと、目覚めるのです。

 

 

 それでも ・・・

桃次郎は、スクスク成長して ・・・

立派な少年になりました。

 

 春風のアーナは ・・・

世界中に暖かい風を運んでいる ・・・

光の国の春風の妖精です。

 

 アーナが通り過ぎると ・・・

次々とお花が開花して、甘~い香りが漂います。

 

 

 ある時 ・・・

アーナは、一本の桃の木と出会いました。

 

 桃の木は ・・・

可愛い桃の花をいっぱいに付けて、満開でした。

 

 しかし ・・・

桃の木の影が、薄くなっているのに気が付きました。

 アーナは ・・・

若い桃の木の影が、薄くなっているのを心配しています。

 

 影が薄くなるのは ・・・

寿命が終ろうとしている、老木だけなのです。

 

 アーナは ・・・

原因を必死で探しました。

 

 そして ・・・

原因を探し出した時 ・・・

アーナは、愕然として涙が溢れて来ました。

 

 桃の木は ・・・

鬼虫に、根っこを食べられていたのです。

 鬼虫を倒すには ・・・

寒~い国にあると言われている氷の雫を探して、

持って来なければいけないのです。

とっても勇敢な者でないと、帰って来れないのです。

 

 

 元気のないアーナに ・・・

「これを桃の木に与えなさい。

  そして ・・・時を待ちましょう。」

女神様が、一粒の希望の光をくれました。

 

 

 

 二話  氷の雫と五人の戦士 へ ・・・ 続く