疫病神の閻魔帳と貧乏神のお財布

花の牢獄(その四)

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 男は、口を開けたまま驚いていた。

 

白い蝶が、桃色の枝を突くと ・・・

 

枝だと思っていたものが、ふにゃふにゃと崩れた。

 

えっ? 桃色だと思っていたものが、緑に変わった。

 

違う! 黄色? ・・・ 青? ・・・赤? 

 

ん ・・・? 

 

光の反射で色が変わるように見えるのか ・・・?

 

大きく目も見開いて、驚いていたら ・・・

 

おっ! ふにゃふにゃしたものが、動き始めた。

 

 ナメクジ ・・・? いや、違う!

 

芋虫 ・・・? いや、違うらしい?

 

触覚みたいなものが2本、頭らしき所から伸びてきた。

 

あっ! やはり、頭だ!

 

顔の形に、なってきた。

 

おっ! 手が伸びてきた。

 

足もだ! おおおーおっ?

 

男は、びっくり!

 

日の光に反射して、七色に変化しながら ・・・

 

みるみる間に ・・・可愛らしい少年に変身した。

 

 

 すると ・・・

 

白い蝶が、美しい白い光の尾をなびかせて ・・・

 

少年の周りを、クルクル回りながら ・・・

 

「チョクチョク ・・・おはよう! 」 と ・・・

 

嬉しそうに言った。

 

 

 

 

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 ヒューッ ・・・  ヒューッ ・・・ 

 

お裁縫箱の国に ・・・

 

 ヒューッ ・・・  ヒューッ ・・・

 

冷たい風が吹く日が ・・・

 

 ヒューッ ・・・  ヒューッ ・・・

 

だんだんと、増え始めた頃 ・・・

 

 ヒューッ ・・・  ヒューッ ・・・

 

真っ直ぐな実のなる、真っ直ぐ畑では ・・・

 

 

 夕日に背を向けた、ものさし爺さんとチョクチョクの

長~い真っ直ぐの2本の影が、寂しそうに伸びていました。

 

 

 

 

 

 ヒューッ ・・・  ヒューッ ・・・

 

・・・ ん?

 

 ヒューッ ・・・ チョ ・・・ ヒューッ ・・・

 

冷たい風に交って ・・・

 

 ヒューッ ・・・  チョクチョ ・・・ ヒューッ ・・・

 

小さな声が ・・・

 

 ヒューッ ・・・ チョクチョク ・・・ ヒューッ ・・・

 

微かに、聞えてきます。

 

 

 

 

 

 誰かが、自分を呼んでいます。

チョクチョクは、じーっと耳を澄まします。

 

すると、右の方から小さな声が聞こえます。

チョクチョクは、右の肩に何かが乗っているのに気がつきました。

 

顔を動かさずに、目だけ動かして確認します。

黒色と黄色のフサフサしたものが、見えました。

 

「えっ? 寅丸!」

チョクチョクは、びっくり!

 

「寅丸 ・・・? どうしたの? 姿を見られたら大変だよ!」

 

「分かってる!」

 

 

 

 寅丸は、闇の国の裁判官の一人です。

決して、人に姿を見られてはいけないのです。

 

 なぜなら ・・・

寅丸は、闇の裁判官の中でも特殊忍術隊の一人で、

人非人に対しては、恐ろしい姿を見せます。

寅丸の持つ針に狙われたら、誰も逃れられません。

 

 

 その寅丸が、自分の肩に止まっているのです。

チョクチョクは、緊張します。

 

「チョクチョク、ものさし爺さんに聞いてくれないか?」

 

「何を ・・・?」

 

「布を、拾わなかったか?」

 

「どんな ・・・?」

 

「拾った時に、どんな布かは分からないんだ!」

 

「どう言うこと ・・・?」

 

「持ち主によって変わるんだ!」

 

 

 

 チョクチョクは、ものさし爺さんに尋ねます。

 

「お爺さん、どこかで布を拾わなかった?」

 

「布 ・・・?」

 

「そう、心当たりある ・・・?」

 

「どんな布じゃ~?」

 

 

 寅丸は、チョクチョクに耳打します。

ボロ布を拾わなかったかと ・・・

 

「ボロ布を拾わなかった ・・・?」

 

「う~ん ・・・?」

 

 ものさし爺さんの反応を見て、

他の布でもいいよと、チョクチョクに言います。

 

「他の布でもいいよ! どう ・・・?」

 

 お爺さんは、う~ん? と考えてから ・・・

「あっ! そういえば ・・・この間 ・・・

  小川へ水を汲みに行った時に、手ぬぐいを貰ったな ・・・」

 

「えっ! 貰ったの? 誰に ・・・?」

 

「女の人じゃ! それも、ニンフのように綺麗じゃった~ ・・・」

 

 

「えっ! ニンフ! 女!」

びっくりして ・・・

チョクチョクよりも速く、寅丸が大きな声で叫びました。

 

 突然聞こえた知らない声に ・・・

ものさし爺さんも、びっくり!

立ち上がって、キョロキョロしています。

 

 

 

 

 

 

 ホワ~ン ・・・  ホワ~ン ・・・

 

薄暗かった闇の空間を ・・・

 

 ホワ~ン ・・・  ホワ~ン ・・・

 

ほのかな灯りが ・・・

 

 ホワ~ン ・・・  ホワ~ン ・・・

 

小さな命が芽生えるように ・・・

 

 ホワ~ン ・・・  ホワ~ン ・・・

 

ゆっくりと ・・・静かに、輝き始めました。

 

 

 

 

「成功したわ!」

リリが嬉しそうに、頬を紅潮させて言います。

 

ボックリ隊のみんなも、飛び上がって喜んでいます。

 

 りりは、今まで一度も成功しなかった朱理の花の種を

目覚めさせることに成功したのです。

しかし、まだ安心はできません。

リリとボックリ隊は、息を潜めて見守ります。

 

 

 小さな灯りの中で、種が割れ始め ・・・

可愛い光の芽が、ゆっくりと伸び始めました。

芽の先から二葉が現れると、次々と葉が育ち大きくなって行きます。

 

 薄暗かった岩の牢獄が ・・・

葉が開くたびに、少しづつ明るくなっていきます。

そして、小さな蕾を付ける頃には岩の牢獄の様子が、目で見えるようになってきました。 

 

 

 

 リリは、自分が閉じ込められている場所を見回します。

出口も窓もない大きな岩で囲まれた暗い空間に ・・・

ゾクッと、背筋が凍るような恐怖を感じます。

そして、今まで当たり前のように暮らしていた明るくて美しい世界が

どんなに幸せだったか、改めて噛み締めます。

 

 

「あら ・・・? あの岩は、何かしら ・・・?」

一つだけ不自然な岩があるのに気がつきました。

 

「クリクリ! 直ちに調査だ!」

ボックリ隊長は透かさず、どんぐり隊に命令を出します。

 

「はい! 隊長!」

元気の良い返事とは裏腹に ・・・

どんぐり隊は、腰を引きぎみで ・・・

そろり ・・・そろり ・・・と、岩に近づきます。

 

リーダーのクリクリが先頭で、カシとナラが続き

シイタケを背負ったクヌギが一番最後です。

 

どんぐり隊は、みんなで固まったまま ・・・

抜き足 ・・・差し足 ・・・忍び足で ・・・

岩の周り調べると ・・・大急ぎで報告に来ます。

 

 トコトコトコトコ ・・・クリクリが ・・・

「何も異常ありません!」

 

 トコトコトコトコ ・・・カシが ・・・

「異常なし!」

 

 トコトコトコトコ ・・・ナラが ・・・クヌギが ・・・

次々と報告に来ます。

 

 

リリは、そんな様子を微笑ましく見ていると ・・・

 

 

 キラッ キラキラ  キラッ キラキラ

 

目を覆うような ・・・

 

 キラッ キラキラ  キラッ キラキラ

 

美しい輝きと共に ・・・

 

 キラッ キラキラ  キラッ キラキラ

 

甘い香りが漂い ・・・

 

 キラッ キラキラ  キラッ キラキラ

 

朱理の花が、開き始めました。

 

 

 

 

 目を開けていられない程の、眩い許りの輝きです。

透き通った秋の夜空に浮かぶ満月のように ・・・

美しい純白の一輪の花が、ゆっくりと咲きました。

 

 薄暗かった岩の牢獄は、甘い花の香りとともに

美しい暖かい光で、灯されました。

 

 

 リリは、初めて見る朱理の花の美しさと

すべてを包み込んで抱きしめてくれるような、

温かい光の輝きに、涙が溢れてきました。

 

 

「リリさん。 こんなに美しい花を見たのは初めてです。」

 

 ボックリ隊長が、感動して涙を流し鼻をすすりながら言います。

どんぐり隊のみんなも ・・・

感動して涙を流しながら、朱理の花を囲んで喜んでいます。

ボックリ隊は、みんな涙もろいようです。

 

 

 

 しかし ・・・

涙を流したのは、リリとボックリ隊だけではありませんでした。

 

 

 カタ カタ  ゴト ゴト

 

リリ達が感動していると ・・・

 

 カタ カタ  ゴト ゴト

 

どこかで ・・・音がします。

 

 カタ カタ  ゴト ゴト

 

みんなで目を、見合わせます。

 

 カタ カタ  ゴト ゴト

 

一気に恐怖の風が、吹きます。

 

 

 恐る恐る振り向くと ・・・

さっき調査に行って、異常がなかった不自然な岩が ・・・

涙を流して、揺れていました。

 

 

 

二十一話 厄病神の閻魔帳と貧乏神のお財布

 

     花の牢獄(その五) へ ・・・ 続く ・・・