然る魔の国と闇の国の謎

三話 青い糸の魔法

(然る魔の国への扉)

お裁縫箱の国の中央に聳える、おとうふ山の奥深くにある

滅多に誰も足を踏み入れる事がない深~い深~い森の中・・・

 

古代から生存している太い大木が生い茂る剣谷の、

鋭い岩が幾つも重なり合い、不気味な姿を現している渓谷に・・・

新緑の若葉の清々しい香りが、そよ風に乗って漂っています。

 

 

 

「おーっ! いい香りだーっ!」

刃物一族のまさかり頭領の大きな声が、渓谷に響きます。

 

「まーっ! 爽やかな、そよ風ね! 気持ちがいいわ・・・」

履物一族のぽっくり姉さんの椿(つばき)の声も聞えます。

 

二人は、剣谷の奥深くにある古~い祠(ほこら)を目指して

渓谷に沿って伸びている山道を登っていました。

 

周りに生茂る木々達が、久しぶりに現れた侵入者を・・・

何しに来たのかと・・・?

興味深く観察しています。

 

 

 バクン バクン  バクン バクン

珍しく、まさかり頭領の胸の鼓動が鳴っています。

 

 バクン バクン  バクン バクン

山道なんて、へっちゃらな、修行で鍛えられた鉄の体の・・・

繊細な心臓の音が聞えてきます。

 

 

頭領の懐には、真新しい御札が入っています。

閂(かんぬき)寺の閂和尚が、古くてボロボロだった御札の代わりに

新しい御札を作ってくれました。

それを、祠の扉に張り付ける為に山道を登っているのです。

 

そのせいで、緊張して心音がバクバクしているのでしょうか・・・?

 

「頭領! 少し疲れたわ。 休みましょう」

背後から、椿の小鳥のような可憐な声が話かけてきます。  

 

 

剣谷まで、新しい御札を収める為に出向くと決まった時・・・

 

「頭領! 一緒に行ってもいいかしら?」

椿が、頬を染めながら・・・

「新緑の森の空気を吸ってみたいわ」

と、恥ずかしそうに言いました。

 

そう言う訳で・・・

みんなに急き立てられ、二人で祠を目指すことになりました。

 

 

木々達は、そんな二人の微妙な空気を感じ・・・

ジロジロと大きな目玉を動かして様子を伺っています。

 

椿は、渓谷から突き出した岩に腰かけて休んでいます。

少し前を歩いていた頭領の大きな背中が見えます。

 

「頭領! お茶にしましょう」

もう一度声を掛けます。

 

しかし・・・

頭領は、何故か・・・? 振り向きません。

 

すると・・・

目の前に、一本の青い糸が現れました。

突然、空中からスルスルと伸びてきたのです。

なにかしら・・・?

不思議に思っていると・・・

糸の先が、青色に輝き始めました。

 

 

そんな異変に全く気が付かない頭領は・・・

心を、決めていました。

こんなチャンスは、滅多にない!

ここで、しっかり自分の気持ちを伝えようと・・・

 

 バクン バクン  バクン バクン

高鳴る鼓動を押さえ、深呼吸をします。

 

 バクン バクン  バクン バクン

今だ! 今がチャンスだ!

そして、がばっと振り向き・・・

 

「つ・つ・椿! お・お・俺は、おまえがす・好き・・・だ~?」

と、大きな声で叫ぼうとしました。

 

しかし・・・

ん? ・・・ あれ? れ・・・?

 

目の前に居るはずの、椿の姿がありませんでした。

履物一族のポッコリ姉さんは、跡形もなく忽然と消えていました。

 

 

 

 

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「どう言う事・・・? ちゃんと説明して!」

光の国の、そよ風の妖精ココのテキパキとした元気な声が聞こえてきます。

 

「だから・・・ 闇の国の妖魔達が闇の扉を開いた時に、

 体を分解させて飛び込むんだ!」

北風大王の子分のスッキー魔のヒソヒソ声も聞こえてきます。

 

「そんな事、出来るかしら・・・?」

ココも、小さな声で答えます。

 

「それしかない! 閻魔帳に名前が載ってない限り、

 他に忍び込む方法はない!」

 

 

そう言う事で、話がまとまり・・・

ココとスッキー魔は、闇の扉がある ・・・

おとうふ山の奥深く、新緑が美しい木々の間を漂いながら

闇の扉が開くのを待っていました。

 

 

 

しかし・・・

先に現れたのは、闇の国の妖魔達ではなく・・・

刃物一族のまさかり頭領と履物一族のぽっくり姉さんでした。

 

 

「何しに来たんだ・・・?」

スッキー魔が、大木の木々の間を吹き抜けながら様子を伺っていると・・・

 突然!

 

「キャーッ!」

ココの悲鳴が聞こえ・・・

振り向くと、助ける間もなく・・・

青い光に包まれて消えて行くココの姿が見えました。

 

 

そよ風の妖精のココは ・・・

爽やかな風に乗って木々の間を通り抜けていました。

すると・・・

ほわほわと輝く、青い光に気が付きました。

近づいてみると・・・

 

 

空中から青い糸が垂れ、先が光り輝いていました。

すると、光が大きく輝くき・・・

「あっ!」

抵抗する間もなく、光の中へ吸い込まれてしまいました。

 

 

 

 

 

スッキー魔は、何が起こったのか分からず呆然としていると・・・

 

「文殊の宝物に願いをかけたんだ!」

頭の中に、声が聞こえてきました。

光の国の、声の妖精ボイスの落ち着いた声です。

 

「どういう事だ・・・?」

スッキー魔が、不思議に思って聞きます。

 

「お裁縫箱の国の子供達が、木っ端天狗に貰った

 文殊の木の宝物の一つ、釣り糸に願いをしたんだ。」

頭の中の声は、冷静に答えます。

 

「だから、心配はいらない。 次期に、まさかり頭領の

 目の前にも釣り糸が現れる。 準備をしていた方が良い」

 

「準備って・・・?」

すっきー魔が、聞き返します。

 

「ココも子供達も、みんな然る魔の国へ迷い込んでいる」

 

「然る魔の国・・・? 何処にあるんだ・・・?」

 

「夢と現実の間にあると言われている。空想の世界だ!」

 

「創りものってこと・・・?」

 

「そう、だから厄介なんだ! 念が強いほど大きな世界が生まれる」

 

「ほう? 誰が創り出したんだ?」

 

 

「多分、あいつだ! あっ!現れた。 スッキー魔急げ!」

頭の中の声が、急がせます。

 

「なんだよ! 俺の意志は聞かないのかよ!」

スッキー魔は、ぶつぶつ一人ごとを言いながら・・・

 

「北風大王の言う事を聞いておけば良かったかな~」

と、言いつつも・・・

まさかり頭領と一緒に、青い光の中へ消えて行くのでした。

 

 

一人残った声の妖精ボイスは、考えます。

だぶん、きっと・・・

然る魔の国へ導かれる運命なんだ・・・?

そして、光のリングを作ると光の中へ消えて行きました。

 

 

 

◯          ◯      

 

 

 

 

「ねえ! あなた、誰? どこから来たの? ここ、どこだか分かる?」

突然、声を掛けられて・・・

光の国の皇子は、びっくりして、立ち止まります。

 

おとうふ山の麓・・・

卯の花草原を走っていたら、声が聞こえて来たのです。

周りを見回します。

しかし、誰もいません。

 

「ここよ! 分からない? そちらからは、見えないの?」

また、声がします。

 

「ここ! ここ! ここよ! 手を振ってみて!」

皇子が、小さな手を振ります。

 

「そう! そう! 良く見えるわ!」

すると・・・

皇子が振った手の動きと同じように、金色の光が動きます。

 

「まあ!」

ミロロは、驚きの声を上げます。

 

「ねえ! 凄いわ! 手を回してみて!」

皇子は、言われるままに、手をクルクル回します。

すると・・・

手の動きと同じように、金色の光が渦を巻き・・・

金色の光のリングが出来ました。

 

「うわーっ! 凄~い!」

ミロロが、口を大きく開けて驚いていると・・・

 

「見えたよ」

可愛い声が、聞えて来ました。

すると・・・

 

「えっ・・・?」

ミロロの目の前の、真っ白な空間に金色の光のリング現れ・・・

中から金色の髪、金色の瞳の少年が現れました。

 

 

 

 

 四話  闇の国の獄卒と光の国の妖精へ  続く・・・