「創作御伽話」
こっとん地蔵とゆかタイガー
昔々・・・
お裁縫箱の国に・・・
燦々と輝く山の端が美しい、白いおとうふ山がありました。
その山の奥深く、キノコの森と呼ばれる山峡に・・・
こっとん地蔵と呼ばれる小さなお地蔵様がいました。
キノコの森は・・・
山かがしが、山桃や山藍の間を、のっそりと這いずり・・・
山鳥の鳴き声が木霊して、キノコの樹木を踊らせます。
滅多に山越しする者もなく、穏やかな時が流れていました。
そんな大自然の中で・・・
こっとん地蔵は、のんびりと平和な日々を過ごしていました。
しかし・・・ある時・・・
一人の旅人が、風呂敷に包んだ荷物をしょって、山道を登って来ました。
「ヨイショ! ヨイショ! ふーっ・・・高いな~」
その者は、おとうふ山の中腹にある、おから峠を越えると深い森の奥を目指します。
「ヨイショ! ヨイショ! ふーっ・・・遠いな~」
こっとん地蔵は、久々の来訪者に心を躍らせていました。
その旅人は、キノコの森へ足を踏み入れると・・・
「おーっ! 珍しい森だーっ! 噂通りだーっ!」
と、大きな口を開けてキョロキョロしています。
そして、小さなお地蔵様に気が付くと・・・
「お地蔵様! ちょっと隣で休ませてくださいな」
と言って、背負っていた風呂敷を解いて、お地蔵様の横に腰を下ろしました。
こっとん地蔵は、ニコニコと微笑んでいます。
しかし・・・旅人は、なぜか元気がありません。
すると・・・
「お地蔵様! 聞いて下さい。 わたしは、困っているのです。」
と言って、身の上話始めました。
お地蔵様は、旅人の話に耳を傾けます。
旅人は、自分の国にある、やっかいなゴミのことで悩んでいました。
そのゴミを捨てる場所がなくて困っていたのです。
するとある日・・・
旅人は、お裁縫箱の国の人に偶然出会い・・・
「私の国には、こっとん地蔵様と言う立派なお地蔵様がいます。
地蔵様のおかげで、お裁縫箱の国はゴミ問題は一つもありません」
と、話したと言うのです。
旅人は、良い事を教えてくれたと喜び、さっそくお裁縫箱の国へ向かったのです。
そして、お地蔵様が、おとうふ山の奥深くにある
キノコの森にいると噂を聞いて、力を借りにやって来たと言うのです。
お地蔵様の前には、旅人が置いていった風呂敷包みがありました。
優しいお地蔵様は・・・
自分を頼ってきた旅人の頼みを断ることが出来なかったのです。
それからの月日・・・
旅人は、度々やって来るようになりました。
その都度、地蔵様は嫌な顔をせず・・・
風呂敷包みを受け入れるのでした。
そして、月日が重なる度に・・・
風呂敷包みが大きくなって行きました。
旅人は、優しいお地蔵様の慈悲に、甘えていたのです。
そんな異変に気が付いたのが、お裁縫箱の国の人々でした。
最近、ゴミの量が増えてきたのです。
お裁縫箱の国の人々は、お地蔵様が心配になりました。
そして、急いで浴衣の余り布から、ゆかタイガーを作って
お地蔵様の様子を見てくるように頼みました。
ゆかタイガーは、キノコの木の影から様子を伺います。
そして、不思議なことに気が付きました。
お地蔵様が、太ったり痩せたりするのです。
太ったお地蔵様を見たゆかタイガーは、心配して尋ねました。
「どうしたのですか?」 と・・・
お地蔵様は優しい声で答えます。
「すぐに元通りになるから心配はいりません」
と、微笑むのでした。
そして・・・
とうとう、お地蔵様より大きな大きな風呂敷包みが現れました。
それでも・・・
こっとん地蔵は、ニコニコと微笑んで受け入れるのでした。
ある日、ゆかタイガーは・・・
お地蔵様が居なくなっているのに気が付きました。
そして・・・
足跡が残っているのに気が付き、辿って行きました。
クンクン・・・ クンクン・・・
そして・・・
まん丸になってしまった、お地蔵様を見つけて・・・
ゆかタイガーは、びっくり仰天!
大きな大きな風呂敷包みのゴミを処理し切れずに
消化不良を起こしてしまったのです。
こっとん地蔵は、お裁縫箱の国のお地蔵様なので
よその国の、やっかいなゴミは、処理できないでいたのです。
それでも優しい、こっとん地蔵は・・・
「心配は、しないで下さい」
と、微笑むのでした。
怒った、ゆかタイガーは・・・
ウオ~ン! 大きな遠吠えを上げます。
そして・・・
お地蔵様から、やっかいなゴミを引っ張り出し
自分のお腹の袋に入れると、旅人の国まで一っ跳び!
「いい加減にしろよ!
自分の国で処理できない、やっかいなゴミを造るなよ!」
と、大きな声で吠えると、やっかいなゴミを投げました。
急いでお裁縫箱の国へ戻った、ゆかタイガーは・・・
元に戻ったお地蔵様を優しく抱きしめました。
それでも、こっとん地蔵は・・・
旅人の国の、やっかいなゴミのことを心配するのでした。
こっとん地蔵の至高の慈愛に・・・
お手上げの、ゆかタイガーでした。
そして、また・・・
おとうふ山のキノコの森に、穏やかな日々が戻ってきました。
おしまい