紅白の花と恨み返し饅頭
遠い遠~い不思議な世界の一つに・・・
おとうふ山と呼ばれている不思議な山がある、お裁縫箱の国がありました。
その山の中腹に、おから峠と呼ばれている見晴らしの良い峠があり、
その片隅に白い美しい岩が、ひっそりと置かれてありました。
その周りには、色とりどりの花々が咲き誇り、旅人達の目を楽しませていました。
ある時、一人の若い女の人が、その岩の前で静かに佇んでいました。
「お岩様、どうか私の願いを叶えてください・・・」
話し終わると、女の人の瞳から涙が流れ落ちました。
すると、生暖かい風が吹き始め、周りの色とりどりの花々が揺れ始めました。
そして、何処からともなく、重苦しい湿った声が響いて来ました。
「白麻花が、紅に染まる時・・・汝の願いは果たされるであろう・・・」
女のひとは震えながら、足早に帰って行きました。
おから峠は、いつの間にか満開の花々が、白一色に染まっていました。
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「お~い!お~い!」
お隣の巻尺爺さんが、丸くなって転がりながら走って来ました。
「なんじゃい! 朝っぱらから騒がしいの~」
ものさし爺さんが、お裁縫箱の家の、扇の窓から顔を出します。
「た、た、大変じゃ~! う、う、恨み返しじゃ~!」
「な、な、何じゃと~・・・?」
ものさし爺さんは、びっくりして扇の窓から転がり落ちてしまいました。
「痛ててて・・・」
お尻を擦っている、ものさし爺さんに、巻尺爺さんが駆け寄ります。
「は、は、花が咲いた。 おから峠に白い花が咲いたんじゃ~!」
「な、な、何をしたんじゃ~・・・?」
「わしは、何もしとらん! お主こそ、何か悪い事をしたんか~い・・・?」
「ば、ば、ばか者! す、す、するはずがない・・・」
大騒ぎは、ここだけではありません。
おから峠に、白い花が咲いただけで・・・
お裁縫箱の国中、噂が噂を呼んで大騒ぎ!
そんなに、後ろめたい事をしている人々が沢山いたのでしょうか?
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その日の夜。
ギシ、ギシと床が軋む音が聞こえるたびに怯え・・・
ぼわ~っと障子に映る影を見て、悲鳴を上げ・・・
頭から布団をかふって「なんまいだ・・・なんまいだ・・・」
と言って一夜を明かす人多数・・・
恐怖は、疑心暗鬼を生み、自ら罪を改め反省する人々続出。
誰に、どんな恨み返しが、掛けられたのかわからず、
おから峠に白い花が咲く度に、お裁縫箱の国は、
すっかり平和になり、争い事は起こらなくなりました。
また、人の噂ほど恐ろしいものはなく・・・
「ムロロ、知ってた? ギシンとアンキの双子の鬼が現れたって・・・?」
「知ってる! 枕元に紅白の饅頭を置いとくと退散するんだって!」
「うん! 恨み返し饅頭で追い払おう!」
どこで? どうしたら? 花から饅頭に変わるのか・・・?
その日の夜、ムロロとメロロの枕元には・・・
針山母さんが作ってくれた・・・
大きな紅白の、恨み返し饅頭が置かれてありました。
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「お岩姉さんの力は、凄いね!」
「ま~ね! 最初が肝心だからねえ~ ほほほ・・・」
「チョクチョク! 閂和尚の所へ行って、紅花の粉を貰って来ておくれ・・・」
「は~い!」
「平和になって、和尚も喜んでいるだろうに・・・ほほほ・・」
しばらくすると・・・
おとうふ山のおから峠は、紅の花が満開に咲き誇っていました。
おしまい